にじ331号 追加

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全盲 もっとでかけたい
にわか雨が降ってきた。
全盲の渡部丁子さん(69)が立ち上がって洗濯物を取り込む。テーブルをよけ、床に置いた書類にも蹴つまずくことなく縁側へ。ハンガーのどこに何を干したかも頭に入っている。
台所や廊下は昼間なのに薄暗い。裸電球はあるが、つける必要がないのだった。
「耳が頼りですからね。でも最近は耳も当てにならないの」と、慣れた手つきでコップに熱いお茶を注ぎながら渡部さんは言う。数年前から左耳が少し聞こえづらくなり、右側を向ける癖がついた。
中学2年で突然光を失った。ぶどう膜炎。誰でもかかる目の病気だ。芦ノ牧温泉(会津若松市)で32年、住み込みのマッサージの仕事をした。不景気になって南会津町の実家に戻り、16年前に母の熊世さんを亡くしてからは一人で暮らしている。
「外出は週2回のデイサービス以外、ほとんどしません。あとは田島のまちに買い物にたまに行くだけ」
渡部さんが利用するのは町社協が運営する訪問介護事業所だ。10人のヘルパーのうち、視覚障害者の「同行援護」の資格を持つ者は一人もいない。対応できるヘルパーが大勢いる会津若松市のような都市部に比べると、選択肢はどうしても限られる。店での買い物は付き添ってくれるが、その店までは自力で行かなければならない。
最寄り駅までの道に点字ブロックはない。白杖で頼りにするのは道端の雑草や縁石で、雪が降ればもうお手上げだ。
本音を言えば、行ってみたいところはたくさんある。歌手のコンサート。パソコン教室。講演会。視覚障害の仲間と交流もしたい。コンサートの前売り券を買ってきてくれるよう頼んだら、ヘルパーに断られた。頭上のクモの巣を払ってほしいとお願いしたら、「それは『大掃除』にあたるからできない」と言われた。
ヘルパーからしてみれば「訪問介護は生きるための支援。家政婦とは違う」という立場だ。
渡部さんはため息をつく。「この土地でずっと暮らしたいけど、親戚も高齢になって身近に相談できる人がいない。家も古くなったし、施設に入るしかないかなと考え始めています」
要介護度は2番目に軽い「要支援2」。渡部さんの暮らしの難しさは、どこまでが人口減によるものなのか、考えさせられた。(高倉正樹)
(読売新聞 9月19日 木曜日、「いまここから9月 奥会津」 人口減をテーマに毎月、県内7か所を定点観測するシリーズです。)

視覚障害者 外出後押し
福島市の「福島視覚情報サポートセンターにじ」で毎週水曜の午後、目の不自由な人が参加する手芸クラブが開かれている。
8月21日は全盲や弱視の男女7人が参加し、一辺40センチほどの座布団作りに挑戦した。毛糸を指の間に交互に絡ませて編む「指編み」という手法で、これなら目で確かめる必要がない。講師を務めるのはNPO法人「にじの会」のボランティア3人だ。
「色が分からないから、色を選ぶのはボランティアの人に任せているの」。緑色の毛糸を手際よく編みながら、視覚障害の女性が言う。「みんな上手だから、サポートが必要なところを手伝うだけ」とボランティアの女性が語った。
9年前から手芸クラブに参加している福島市の佐藤登代子さん(71)は、50歳代の頃から視力が低下した。
「外に出る機会が少なくなったけど、仲間に会う場があるから、出歩くきっかけになる。やってみたいことを相談すれば色々と自分でできることが分かり、積極的になった」と笑顔を見せる。
にじの会の前身団体は1981年、点字講習会を修了した受講生10人ほどで設立。代表の加藤三保子さん(70)は一番下の息子が幼稚園に入り、手が空いた32歳の時、市主催の点字講習会にふらりと参加してみた。同じ日本語を違う形で表現できる点字のとりこになった。
会は「希望する本を何でも点訳します」と呼びかけた。最初の依頼は時刻表。「他人が決めたルートの旅行しかしたことがない」という40歳代の男性の訴えだった。手分けして点訳すると、「これで自分でも計画が立てられる」と喜ばれた。
病気や交通事故などを理由に人生半ばで目が不自由になる中途障害者は、気分が塞ぎ、家に閉じこもりがちになる。加藤さんは、会の活動が視覚障害の人の外出を後押しし、社会参加を促すことに気がついた。
要望を聞いてみると、「手芸をしたい」「フラダンスをしたい」と次々と声が上がった。そこで幅を広げ、現在はハンドベル、パソコン教室など四つのクラブ活動を行っている。
中途障害者が点字を学び、自信を付けて様々な活動に挑戦するようになる姿に加藤さんはやりがいを感じる。「外に出るきっかけになる場所であり続けたい」と話している。
本の点字化、貸し出しも
サポートセンターにじは福島市西中央の住宅街の一角にある2階建ての施設。手芸などの各クラブ活動が週に一度あるほか、本の点字化、点字本の貸し出しを行っている。春と秋はウォーキングイベントなども開催している。フラダンス以外はすべて無料だ。
会を支えるのは約150人のボランティアで、点字講習や音訳講習などを受ければ誰でも手伝うことができる。
県内の視覚障害者は4月1日時点で4992人。毎年約200人が中途の視覚障害者として障害者手帳を取得している。会では、こうした中途障害者は特にニーズが高いとみて、「気軽に足を運んでほしい」と呼びかけている。(鞍馬進之介)
問い合わせは、にじの会(024-529-7021)へ。(読売新聞 9月2日 月曜日 ただいま活動中)

お問い合わせ先

特定非営利活動法人にじの会


〒960-8074
福島市西中央2丁目23-1
TEL:024-529-7021
FAX:024-529-7031

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